中高一貫校の保護者の方から、こう言われることがあります。授業中はまじめにノートを写している。ノートを見る限り、きちんと授業を受けているように見える。なのに、テストになると点が取れない。
実は、「ノートを写すこと」と「授業を理解すること」はまったく別の行為です。そしてこの違いに気づかないまま中高一貫校の数学の授業を受け続けると、「真面目に授業を受けているのに成績が下がり続ける」という不可解な状態に陥ります。
この記事では、ノートを写すだけの勉強法がなぜ危険なのかを解説し、「ノートを活用した、本当に意味のある学習」に切り替えるための方法をお伝えします。
板書を写す行為は、目で見た情報を手に伝えるという、ほぼ機械的な作業です。脳の高度な処理(理解・分析・記憶への定着)は、ほとんど行われていません。
心理学の研究でも、「書き写す」行為の学習効果は非常に低いことが示されています。書いているあいだは「理解した気分」になりますが、実際には情報が短期記憶にすら十分に入っていないことが多いのです。
授業中にノートを写しているとき、お子さまの脳は「先生が何を言っているか」ではなく「黒板の文字を正確に写す」ことに集中しています。つまり、聞くべき説明を聞き逃しているのです。
ノートに板書がすべて写されていると、「今日の授業はちゃんと受けた」「あとでノートを見返せば大丈夫」という安心感が生まれます。
しかし実際には、ノートを見返す生徒はごく少数です。ノートを閉じた瞬間から忘却が始まり、テスト前にノートを開いても「何が書いてあるかよくわからない」状態になります。
ノートは「取ること」に意味があるのではなく、「後で活用すること」に意味があります。活用されないノートは、どんなにきれいでも学力にはつながりません。
中高一貫校の数学、特に体系数学では、公式や解法の「なぜ」を理解することが求められます。
板書には解法の結果は書かれていますが、「なぜその解法を使うのか」「なぜこのステップが必要なのか」という思考の過程は、先生の口頭の説明の中にあることが多いです。
ノートを写すことに集中していると、この「口頭の説明」を聞き逃してしまいます。結果として、ノートには解法の手順は残るものの、「なぜそうするのか」の理解が抜け落ちた状態になります。
板書をすべて写す必要はありません。教科書に同じ内容が載っている場合は、教科書を参照すればいいのです。
ノートに書くべきは、教科書には載っていない情報——先生が口頭で補足した説明、例題の別解、テストに出やすいポイント、自分が「あ、なるほど」と思った瞬間のメモです。
板書を減らすことで、先生の説明を「聞く」時間が生まれます。聞いて理解した内容を自分の言葉でメモするほうが、板書を丸写しするよりもはるかに定着します。
板書の横に、自分の言葉で1行メモを入れる習慣をつけてください。
例: 板書:「二次方程式 ax² + bx + c = 0 の解の公式」 自分のメモ:「判別式のところで±が出るから解が2つ出る。判別式が0だと解は1つ」
この「自分の言葉でのメモ」が、テスト前の復習で最も価値のある情報になります。板書の公式だけ見ても思い出せなくても、自分の言葉のメモを見れば「ああ、そういうことだった」と思い出せることが多いです。
授業中に先生の説明を聞いて、理解できなかった部分があれば、ノートに「?」マークをつけてください。
授業後にこの「?」マークの部分を教科書で確認するか、先生や友人に質問します。このプロセスが、「わからないまま放置する」という最悪のパターンを防ぎます。
授業が終わった後、その日に扱った例題を1問だけ、ノートを見ずに自力で解いてみてください。5分で終わります。
解ければ、授業の内容は理解できています。解けなければ、ノートに戻って確認し、もう一度解き直します。
この「5分間の解き直し」が、授業の理解度を確認する最も正確な方法です。ノートをどんなにきれいに写しても、この5分間の解き直しには敵いません。
テスト2週間前に、ノートの中から「テストで使いそうな公式」「間違えやすいポイント」「先生が強調した内容」だけを抜き出し、A4用紙1枚にまとめてください。
この「まとめシート」を作る作業自体が、情報の整理と記憶の定着を促します。テスト直前にはこの1枚だけを見返せばよいので、分厚いノートをめくり返す必要がなくなります。
お子さまのノートがきれいに書かれていると、保護者は「ちゃんと授業を受けている」と安心しがちです。
しかし、ノートの美しさと学力の高さには相関がありません。むしろ、ノートを「きれいに書くこと」に時間とエネルギーを使いすぎている生徒ほど、肝心の「理解」がおろそかになっているケースがあります。
カラーペンで色分けし、定規を使ってきれいに線を引き、図を丁寧に描き直す——これらの作業は「勉強しているフリ」にはなりますが、学力の向上にはほとんど貢献しません。
お子さまのノートを見るときは、きれいさよりも「自分の言葉のメモが書き込まれているか」「?マークがあるか」に注目してください。これらがある生徒は、ノートを「学習ツール」として使えています。
ノートは美しく仕上げる作品ではなく、学力を伸ばすための道具です。
板書を全部写すのではなく、自分の言葉でメモする。わからなかった部分に?マークをつける。授業後に5分だけ解き直す。テスト前にまとめシートを作る。
この4つの習慣を取り入れるだけで、同じノートが「ただの記録」から「成績を上げるツール」に変わります。
武蔵野予備校FLEXの東大生講師は、生徒のノートの取り方もチェックしています。「ノートを写しているだけ」の状態から、「理解しながら記録する」状態への切り替えを、授業の中でサポートします。
ノートがきれいなのに成績が上がらない——その原因は、ノートの「使い方」にあるかもしれません。
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